固定費の落とし穴ーその2(経営スキルはコロンブスの卵)

(承前)
J社の社長は業績改善のために管理会計を導入しました。
検討の結果、バックオフィスの社員を削減することになりました。
全部で5人いる社員の働きを精査してみたところ、優秀な2人で9割方の営業のサポートをしていることが判りました。
ということで3人は無駄だと判断した社長は、このうち2人を整理しました。

これで固定費の削減が出来たので予定通り利益が向上してくると思っていた社長は、信じられないものを眼にすることになります。
事務社員を整理した月から、売上高が目に見えて減ってきたのです。


なぜこのようなことになったのでしょうか?
実は簡単なことなのです。
「バックオフィスの社員のうち優秀な2人で9割方の営業のサポートをしている」ということはどういうことでしょう。
これはこの2人の社員はそれ以外の仕事はほとんどしていない事を意味します。
つまり残りの3人で5人分の「営業事務以外の作業」をこなしていたのです。
この3人のうち一気に2人も減らしてしまったため、優秀な2人にその負担がいったのです。
こうなると従来通りの営業サポートが出来なくなります。
プレゼン資料の作成が遅れる、契約書の作成が遅れる、請求事務が遅れる、回収に手が回らなくなる・・・。
結果として営業スタッフがその能力を十分に生かせなくなっていたのです。
これがJ社の売上高が減少した原因でした。


「バックオフィスの人件費は固定費のはず。その固定費を削減して売上が減少するなんてどういうことだ!」
J社の社長がそう考えるのも無理はありません。
しかし管理会計だけでは、これが説明できないのです。


「営業をサポートしていたスタッフだったら、それは変動費になるのでは?」
そう考える方もいるでしょう。
しかしそれを言い出したら全ての費用が変動費となってしまいます。
建物の減価償却費でさえ、それがあるから営業スタッフの仕事が出来るということも出来るからです。


こうやって考えると、いとも当たり前のように見えます。
経営スキルのほとんどは、このように当たり前のことばかりです。
誰も思いつかないようなものは、ほとんどありません。
しかし同時に、当たり前すぎて思いつかないことでもあります。
コロンブスの卵のようなものがほとんどなのです。
それに気づいた人だけが使いこなせる。
それが経営スキルなのです。
(了)